四、樹木使いの謎解き
やがて都に住む人々の間で奇妙な噂が流れ始めた。
<翔人>と<人>そして<夜見>の王達が、<夢具の歌唄い>を密かに滅ぼそうとしている。
そのために彼女らの謎を解く者を必要としている。と。
たとえ、たったひとつでも彼女らの謎を解き明した者には、何でも望みのものを与えよう。
噂は瞬く間に拡がり、人々は顔を見合わせては囁きあうのだった。
ある夜。
都から遠く離れた谷の村から、<人>の王のもとへ一人の男がやってきた。
男は『樹木使い』だと名乗った。
「樹木使い、とは初めて聞く名前だ。してそれはどのようなことをするのだ」
<人>の王は物憂げな様子だった。
「わたしどもは、人や獣にとって害をなす魔の草を取り除きます。鎌も薬も火も必要ありません
草に命じるだけです。それだけで彼らは自然と枯れてしまいます。その後に思うがままに森を茂らせ
花を咲かせます。
・・・と申しますのも、わたしどもは樹や草の声を聞くことができるのです。
それで少しばかり都の人々よりはものを知っている。そういうわけでございます」
「さようか。ではそなたの知っている<夢具の歌唄い>の謎を解き明してみよ」
「彼女らのことについては、残念ながら、たったひとつのことしか知りえませんでしたが、それは
彼女らの使っている竪琴について、でございます。
あの竪琴は人の目には映りません。
それというのもあの竪琴に使われている玄は、影喰いと呼ばれる非常に珍しい虫の繭からのみ
作られるているからなのでございます。」
「影喰いとは、初めて聞く名じゃ。それはどこにおる?」
「それは・・・それを知るのは歌唄いのみ。
彼女らだけが、そのの住むところを知り、繭を得ることができるようです。
館の庭にある老木がそう申しておりました」
「それだけか? 他に知っておることはないのか?」
「いえ。<夢具の歌唄い>が未来を唄うことが出来るのも、本当はこの影喰いの力によるところが
大きいのです。
ですから影喰いさえいなくなれば夢具の歌唄いは、未来を唄うことができず無害なものとなるでしょう」
「その通りだ。しかしその虫の姿形がわからぬでは滅ぼすことも不可能だ」
樹木使いの目が狡猾そうに光った。
「お前は知っておるのか? どんな姿をした虫なのだ?」
「その前に王よ、私の望みをお聞き届けください。よもや噂は虚偽ではありますまい?」
「褒美のことか? ならば、それは誓って真実であると言おう。
何なりとそなたの望むままを申すが良い!」
「私は知っております。王がすべての宝玉を失ってしまったことを。
またそれを取り戻したいと望んでおられることも。
ですから、わたしは夢具の歌唄いの秘密を明かしました。
もし、王の望む通りになりましたなら、私には伝説の十九個目の石をいただきたいのでございます」
「大それたことを申すな。そのような望みは身を滅ぼす因となろうぞ。
・・・だが、良かろう。約束しよう。
それをもし手に入れることができるならば、それはそなたのものじゃ」
樹木使いはうっすらと笑った。
「よろしゅうございます、王よ。では<影喰い>がどのような姿をしているか、
それはご自身の目でとくと確かめられるが良いと思います」
樹木使いが手を振り上げると、王の前に一匹の蝶のような生き物が現れた。
それは漆黒の色をした羽に目のような模様を持ち、そのが妖しく光る両目で王を見つめていた。
五、狩りの始まり
三人の王は申し合わせたように同じ布告を出した。
それは何人であろうとも、例外なく<夢具の歌唄い>に近づいてはならぬ、というものであった。
その歌を聴くことはもちろん、館に訪れることも禁じられた。それと同時に三人の王は<夢具の歌唄い>達を捕らえ、竪琴を焼き払うように命じたのだった。
彼女達は何の抵抗もせず大人しく捕らわれていったが、竪琴を焼却することだけは頑なに拒み、なんとしてもそれらを手放さそうともしなかった。
王の苛立ちは激しく、ついに夢具の歌唄いをその歌声の届かぬ遠い地へ永久に追放すると宣言した。
その翌日。
不思議なことが起こった。
王の命令が届く前。
およそ一晩のうちに村からも町からも都からも、彼女達の姿が消えてしまったのである。
こうして<夢具の歌唄い>は去っていった。彼女らがどこへ消えたのか誰にもわからない。
もはやこの世界には彼女達の生きる場所は存在しないと悟って、この世界とは別の世界へ去ったのかもしれない。
それとも今なお人知れず永遠の放浪を続けているのだろうか?
いずれにせよ、その後二度と<夢具の歌唄い>の姿を見かけたものはいなかった。